
見事な格安 保険
新薬が出ても7〜8年で、海外のように、薬局レベルで自動的にジェネリックに切り替えていくことになり、同じ成分の安い薬を使うようになるので、新薬開発をした製薬会社がいつまでも利益を独占することはできなくなる。
こんな状況に独力で立ち向かえる製薬会社は、日本でも数社しかない。
小さな製薬会社は外資に吸収されることをむしろ望んでいるが、特殊な薬を持っているメーカーなら可能な話なのであって、買収の対象とならない小さなメーカーも多い。
数百億円といわれる研究開発費は、実際の研究開発とは関係のない金も入っていて、税金逃れに使われているという。
研究開発費のなかで第W相臨床試験が増えていて、金を払って臨床医に新薬を使ってもらい調査をするので、第W相臨床試験は販売促進の巧妙な戦略ではないかと指摘している。
新薬開発はお金がかかるから、製薬会社はなかなか儲からないというようなことを言われていたが、実際はそんな単純なことではなかったようだ。
ひとつの例として、オーファンドラッグ(患者数が少ない難病治療薬)などの開発をして、税金対策として、高額な研究開発費とみせかけているのだという。
医療業界で、医療費の抑制政策が続き、医者の収入、病院の収入も減っていながら、なぜ製薬会社だけが収益を上げ続けているのか。
このことを指摘する人はあまりいない。
前述したように、収益が上がってくれば、経費を使うために講演会なども頻繁に行われるのだろう。
かたや、同じ医療業界に身をおいている医者は、給料が上がることもなければ、労働条件が改善されることもない。
いまの医療産業は非常に偏った利益配分だといえるだろう。
以前は製薬会社から医者に、ある意味では利益の還元がなされていた。
「症例報告」や「ケースカード」といわれるものを介して、医者に現金が渡っていたのだ。
こうした慣行が業界の規制により行われなくなったために、製薬会社だけに金がストックされる仕組みができあがった。
薬の投薬や治療を行うときに、本当に効果があるかどうかを調べることは非常に難しい。
ある人にAという薬が効いたからといって、すべての人に効くとはいえないからだ。
健康食品などは経験的に効くという理由で多くの人が使っているが、その効果を科学的に証明するためには、たくさんの人に長期間にわたって処方し、効果を統計学的に証明しなければならない。
この「統計学的な大規模調査によって効果が実証された医療を行う」という考え方が、EBMというものだ。
直訳すれば「実証にもとづく医療」ということになる(EBMについては拙著「医学は科学ではない」で詳しく述べたので、興味のある向きはそちらを参照していただきたい)。
実際の臨床現場では、すべての治療が科学的な根拠にもとづいて行われているわけではない。
担当医の経験やカンで治療方法が決められるケースは少なくないのである。
こうした非科学的な医療習慣に、科学に裏づけられた合理性を与えようとするのが、EBMという考え方である。
そのために数千人から数万人という患者を対象とした疫学調査を行い、その結果で有用性が確認されれば、信用のおけるデータとなる。
むろん、こうした大規模調査を実施するためには莫大な金がかかる。
調査の費用を薬価に反映できる医薬品でなければ、大規模な調査を行うことは不可能である。
健康食品などでは、価格に調査費用を上乗せできない。
また、ある健康食品だけを食べ続けるということも、実際にはかなり難しいだろう。
長期間にわたり、精度の高い研究調査は、医薬品でないとできないのが現状だ。
このような理由から、大規模な調査によってある薬の効果が証明されれば、その研究論文や資料をもってMRは開業医を訪れ、自社の薬の優位性を訴えるのだ。
医者も「EBMはあるの?」とMRに水を向け、実際にどれくらいの効果があるのかを常に気にするようになった。
新薬が出たからすぐに試してみる医者は少なくなったし、患者の副作用を心配するので、その懸念を払拭するだけのデータが必要とされてしまう。
そのためもあって、医薬品が市場に出てからも、製薬会社は大規模な調査をしてその有効性や安全性を証明しないと、なかなか売りにくくなってしまったのだ。
もっとも信用のおけるとされるEBMですら、その実効性は疑わしいと前述のAは指摘する。
EBMは統計学的に信用がおけるとしても、その疫学調査にかかる費用は税金をつぎ込んでいるのではない。
数百億円という巨費を試験に投入できるのは、巨大な製薬会社にしかできないことだ。
そのため、製薬会社が調査の資金を拠出し、調査を中心となってやっている大学に対しては寄付金として資金を提供していることが多い。
さらにアメリカでは、EBMの結果の解析にも製薬会社が意見をいうこともあるので、非常にバイアス(ある特定の見方、偏見)がかかった評価をしがちになるのではないかと、Aは指摘している。
こうした大規模な調査で有名なものに、ALLHATという調査がある。
この大規模調査の本来の目的は、ずっと使われてきた利尿薬の有効性を証明して、医療費を安くすることにあった。
ALLHAT試験は約8年間かけて行われた史上最大の大規模臨床試験で、使用した薬剤はカルシウム桔抗薬(アムロジピン〔ノルバスク〕2.5利尿剤(クロルタリドン〔ハイグロトン、チバガイギー〕ACE阻害薬(リシノプリル〔ゼストリル、ロンゲス〕)である。
この臨床試験では、利尿薬が心筋梗塞や脳卒中、心不全などにおいて、他の薬剤と同等あるいはそれ以上の効果があることが実証され、利尿薬が再評価されたことが特徴であった。
かつては利尿薬が降圧治療によく使われていた。
血清カリウムの低下や血糖値の上昇といった副作用の問題で次第に使われなくなった。
その後、ACE阻害薬やカルシウム桔抗薬の出現でそれらが降圧薬の主流になっていた。
その背景には、「利尿薬を使うと血液の濃縮が起きて脳梗塞が起きやすくなる」という迷信にも近いものを多くの医者が持っていたことがあり、利尿薬はほとんど使われなくなっていた。
この臨床試験の結果をそのまま日本では適用できないと考えることが一般的である。
というのも、利尿薬の効果は塩分摂取量の影響を受けるので、塩分の摂取量がアメリカ人より多い日本人で、同じ結果が出るかどうか疑問だからだ。
問題はそういったことではなく、ALLHATのような大規模で長期的な臨床試験をやってもその結果をどう解釈するかで、まったく違った見方ができてしまうことだ。
ALLHATは血圧の治療薬の有効性を証明しようとしたが、調査の結果からは、現在使われている降圧薬と古い薬である利尿薬の効果に明白なちがいが確認されなかった。
この調査結果は、巨費を投じて新薬開発をしてきた製薬会社には不都合である。
なぜなら、数十年も前に開発された利尿薬と、膨大な開発費をかけてきたカルシウム桔抗薬やARBといわれる新薬の効果にたいした差がないとすれば、製薬会社にとっては大損だからだ。
だから新薬を開発した製薬会社は、ALLHATの結果を非常に詳しく解析し、「生命予後には大きな差がなかったが、ある特定の病気の場合は、利尿薬より有利である」という解析を行った。
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